ISHII SATOSHI -Kawa no Maker- >> Fly Fishing >> column:渓流での最高のひととき
その日は9月1日。うだる暑さが一段落した、爽やかな渓流。
関東の渓流はどこもシビアで、そう簡単には釣れない。すでに良さげなポイントで食ってもきたが、フライに掛からない。警戒しているせいか、口の深くまで食ってなかったのだろう。「うわー、最悪だわ!」と、ため息も出る。流し方が悪いのだろうか。
そのチャンスを逃した後、写真に写る溜まりにやってきた。私は高さ1m程の堤の上に乗っている。右奥の長いザラ瀬から、虫が混ざった水がこの溜まりに流れ込んでくる。この渓流の中では一級のポイントだろうなと思った。確実にヤマメはいて、そこそこ良い型なのは間違いない。左の岩のどこかに定位してるはずだ。
「ここはフライでこそ狙うポイントだろう?」と、気持ちが高まった。水面は割と落ち着いている。透明度が高く、隠れるような岩も沈んでいない。左から枝が張り出している。
初めて狙うポイントなので、失敗する可能性は高い。どう流せば釣れるかが分からない初めての川は、その不確定さが楽しい。
浮かんでくる失敗のイメージと相談し、どう釣るかを考える。流すフライは確実に目に留まるものであれば良いだろう。魚はどの辺りにいるか。泡の前半ではないだろう。恐らく、後半の落ち着いた流れで、落ち着いた判断をして食ってくる。
枝の張り出しと、左が流れが速いことを気にしてキャストしなければならない。 それに加え、流れのどこ魚がいるか。ストレートでキャストしても釣れないと思った。魚の頭上にフライラインを通すことはしたくない。
枝の張り出しがあるけれど、フライ先行で流せるよう、ループを左に倒すことにした。右腕をなるべく右に倒しつつ、ロッドティップは体の左を通す。体を屈ませてループの高さを抑え、枝を引っ掛けないようにも気を付ける。
勝負は一回のみ。ヘタにフライが動いて魚に嫌われたらそこで終わりだ。底石が見えるほどに水は透き通っている。目を凝らせば魚も見えるかもしれない。水面の泡の流れに視線を集中させ、意を決してフライを水面に落とした。
流れの先、泡がまだたくさんある中にうまくフライを紛れ込ませた。フライが流れと一緒にこちらに来る。泡がまばらになるにつれ、フライが目立ってくる。食わせるか嫌われるか、一発勝負だ。
余るラインを左手で手繰る。そろそろだろうか。反応が無いことはあり得ない。余るラインをさらに手繰り、フッキングに備える。
「お!」 フライの手前に魚の影が映り、フライを食った。 バシッと出た魚に感謝し、お願いしますという気持ちでロッドを立ててフッキング。確かな手ごたえを感じ、嬉しさがこみ上げてくる。同時に、外れないでくれ頼むからお願いだからという焦りに駆られる。
急ぎで右の浅い方に走る。ネットを取り出し、無事に収まってくれと願う。透き通っていて生命感溢れるヤマメが、無事にネットに収まる。思い通りにできた、最高のひとときだった。
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