ISHII SATOSHI -Kawa no Maker- >> Maker >> column:毛皮利用の是非とブランド
衣類用に毛皮を使用することを辞め、代わりに化繊ファーを採用するという動きがある。その理由は、毛皮となる動物が痛めつけられているからというものだ。是非を呼びやすい話題で、ジャーナリズム的に注目されやすい。聞いたことがある人も多いと思う。
けれど、利用しない理由は他にもあると思う。毛皮を販売しないと謳う販売者はいくつかの傾向がある。それは、人件費を抑えた生産、世界的に販売量が多い、トレンドに即時対応した生産をするといったものだ。
ちなみに、毛皮が製品として消費者に利用されるまでには考慮すべき条件が多くある。そこまで育てる時間。育つ場所や地域の整備。冬毛と夏毛のタイミング。その年ごとの気候や季節や個体差に応じた鞣し。熟練した裁断縫製者。完成品の品質のバラつき。販売時の品質説明。防虫やトリートメントといった適切な扱い方。このような条件を考えると、先の傾向がある販売者は毛皮を採用しくい。
ファストファッションやブランドと自負する販売者の、化繊ファーは毛皮の代替なのだろうか。動物の毛皮に似せることを本質に捉えているなら所詮偽物で、化学素材ならではの利点を強みとして開発されているなら偽物ではなく別物だ。だから、毛皮の代替というより、目的の違うものだ。本物の毛皮の代わりや似た物という売り方は、言ってしまえば不格好だ。
ムートン(Mouton)はファー(Fur)ではないが、食肉牛の皮と同様の副産物であり、革として利用される。なお、毛皮を第一目的にした生産も私は良いと思う。一枚一枚が大きさも毛並みも色合いも異なり、仕入れや裁断、縫製、販売、購入、使用、それぞれに作法がある。作法はマナーでもある。良いものに触れることは経験になる。それに、毛皮は天然のものであるという、化学で作られたものとは違う、触れたくなる要素がある。毛皮に限らず、革、角や貝のボタン、無垢の木材、造花ではない切り花、そういうものを私はいいと思う。
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